スリーピング スワン
Ty Burhoe
こんにちは。またここに戻ってきてくれて、どうもありがとう。
実はこのところずっと、僕にとって特別な意味のあるアルバムの制作に取りかかっています。制作を始めてから、随分長い時間が経ちました。このアルバムの中で僕が弾いているのはギター。それに収録曲のほとんどは、僕が子供たちを寝かせるのに作ったおとぎ話のバックミュージックとして作った曲なので、これまでの僕のアルバムとははまた別の雰囲気に仕上がっています。
今回のアルバム制作の旅路について、少しシェアしようと思うと、時計の針をだいぶ戻すことになりますが、どうぞお付き合いください。
タブラというドラムをなんとなく始めたのが1988年。その後1990年に師匠のザキール・フセインと出会って以来、奥深く難易度の高い、インドクラシックにおけるタブラという芸術にのめり込み今現在に至ります。スタート地点ですでに26歳でしたから、クラシック界の最前線で活躍するには「年齢的に出遅れた感」がありました。が、僕はとにかく頑固ですから。もう完全なる全力投球でした。師匠のお力添えもあって、やがてテーブルの上に並んだクッキーにようやく手が届くところまでに成長します。ちなみに、ここでいう「テーブル」は、タブラのような伝統楽器だと、20年とか、それ以上の年月をかけて挑むものですから、いろんな意味で、まだまだ僕にはテーブル全体を見渡せるほどの高さは身についていません。とはいえ、小さな子供たちと同じで、タブラという芸術性の高いドラムが、ただただおもしろくて仕方がないのです。ー 楽しい!
それはさておき。僕にはもう一つ大好きな楽器がありました。アコースティックギターです。高校1年生(1978年くらい)で始めた当時、それがカッコイイ時代だったり。それまでトローンボーンを7年続けていたのですが、歯列矯正の上下ブレースで・・あいたたた。演奏休止せざるを得ず、口を使わない音楽を探していたというのもあります。
兄のマークと僕は歌や楽器が好きで、あれこれ試しながら過ごしていたし、クラシック歌手でありながら、エリック・クラプトンやレッド・ゼッペリン、キャット・スティーヴンス、ムーディ・ブルース、ELO、YESなんかを聞くカッコイイ親父の元で育ったので、エレキを始めるのも、バンドを組んだのも僕にとってはごく自然な流れだったと思います。その後何年か、エレキとバンドでエネルギーを解放するように過ごしていたある日、弟のスコットが「6&12弦のギター」というレオ・コッケのCDを家で聴いていて。これが、僕が本当の意味でギターに恋に落ちた日、新しい章の始まりでした。
以来、指弾きのアコースティックギター奏者を知ってはアルバムを聴き、完全に魅了される、そんな日々を過ごしました。マイケル・ヘッジスやピエール・ベンスーザン、アレックス・デ・グラッシ、天才的技巧で知られるパコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリンのアコースティック、ロックもアコースティックもいけるアル・ディ・メオラ、スティーヴ・ハウ、スティーヴ・モーズ・・と枚挙にいとまがありません。ギターを習ったことは一度もないのですが(あのころ習ってたら良かっただろうな、と思うことはありますが)それでも、当時憧れのミュージシャンの音を全部吸収して同じように弾きたい、という思いが相当強くて必死で練習したのを覚えています。結局大学に入学し、「野生生物学」という新たな章を迎えると、血気盛んにギターテクニックを披露する面々と張り合うのに疲れ、エレキギターを売ると同時に音楽からも遠のくのでした。こうして、グリズリーベアとビーバーの増殖、ミサゴの保護を専門とする学位課程に沿って、僕はモンタナの荒野へと姿を消したのです。
大自然の静けさの中で1年半を過ごしたころ、再び音楽が恋しくなって、しっかりとした温かい音で響く、ダークブラウンのトウヒを使ったジャンボボディのギターを買いました。手にしたギターを眺めながら、自分の好きなようにチューニングして、自由なスタイルで弾いて良いんだ。そんな実感が湧いたのを覚えています。僕を拘束していた「ギターの然るべき音」や「指の使い方」なんていう宇宙の法則から、もう自由になっていたのです。こうしてギターに触れるうちに、僕なりのチューニングが生まれ、そのうち単純に自分がリラックスしたり想像したりするためだけのシンプルなメロディーができ上がり・・今日の僕は、その延長線に居ます。
それからというもの、技術的な能力を披露したい、とか、音楽的な論理から離れて純粋にギターの音を楽しんで来られたのは本当に良かったと思います。それに、結果的に僕の「技巧的挑戦欲求」を満たすに十二分な、世界で最も難しく技術的訓練の必要なドラムの奏者になったわけなので、セオリーも、課題も、終わりのない練習(人生をシンプルに保つ秘訣)も全て不足はありません。それとは別に、タブラプレイヤーの僕では、自分の内にあるハーモニーやメロディー的な風景を描く術が限られているので、よりメロディー的表現の可能なギターで自分の音楽を具現化することで、本来の自分そのもの・・「魂」に新しい風を入れるような心地です。リズムとメロディ、自分の持つ2つの要素を表現することで、ミュージシャンとしても、より素直で、バランスが取れるように感じています。
この辺で、話を今回のアルバムリリースに戻します。アルバム制作の旅路で最も心和む章ともいえるのが、コロラド州ボールダーのはずれにある山中で息子のショーンと暮らした時代です。僕らは、アメリカで「キャビン」とよばれる、木造の、日本でいう山小屋とか、ロッヂと呼ばれるような家に暮らしていました。夜になると、ショーンが眠りにつくまで物語を作って聞かせました。そのお話に、僕流のチューニングギターで奏でるシンプルなメロディーを加えながら。そんな風にして、ショーンに聞かせたおとぎ話に合わせて作ったメロディーを集めたのが、今回のアルバムです。これまで自宅以外の場所で発表することなど考えたこともなかったのですが、最近になって、もしかしたら、世界のどこかには、僕らと同じように、穏やかさや希望の光を求めている人がいるかもしれない。家族という枠を、世界まで広げてみてもいいのかもしれない。そんな風に思うようになりました。
良かったら、こちらのリンクでアルバムを聴いてみてください:
http://www.tyburhoe.com/shop/byh0l6h0fm617jxvz3g26y6pt0adi0
今まさに完成を迎えようとしている一大プロジェクトについて、ここまでお読みくださりありがとうございました。今回のアルバム制作は、とても楽しい旅路でした。実は、今回未発表の作品も温めていたりするので、今後も僕の内に流れるメロディーを皆さんにお伝えしていけたらと思っています。この後すぐは、「リズムのタイ」としての活動が続きますが、落ち着いたらまた僕のギター物語をご紹介したいと思っています。
穏やかさ。思いやり。インスピレーションをあなたに。
タイ